ホームエンタメ韓国ドラマ私のおじさん「いい声のおじさん、イ・ソンギュン」を偲び

私のおじさん「いい声のおじさん、イ・ソンギュン」を偲び

マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜

マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜

6年前に夫と見た韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』

夫がなぜかひとりでまた見ていて、隣で見ていたら、やっぱり面白くて…!!

 

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』

結局また一緒に見るようになり。。最後まで見ましたが、改めていい作品だなと思いました。

 

『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

原題は『나의 아저씨(私のおじさん)』

アイユー(IU)も、イ・ソンギュンも、最高の演技だったし、

脚本も演出も素晴らしくて。。結末を知っているのにもかかわらず引き込まれました。

 

マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜

このドラマを見て、心を打たれたセリフ。

네가 대수롭지 않게 받아들이면, 남들도 대수롭지 않게 생각해. 네가 심각하게 받아들이면 남들도 심각하게 생각하고. 모든 일이 그래. 항상 네가 먼저야.

네가 아무것도 아니라고 생각하면 아무것도 아니야.

 

お前が大したことじゃないと受け止めれば、周りも大したことじゃないと思う。お前が深刻に受け止めれば、周りも深刻に考える。すべてのことがそうなんだ。いつでもお前が先なんだよ。

お前がなんてことないと思えば、なんてことないんだ。

 

最近、人の目に心が左右されがちで、ストレスを感じていましたが、

自分の軸は自分が持てばいいんだと、深く気づかせてくれました。

 

マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜

また、夫婦ともに、イ・ソンギュンさんが亡くなったことが本当に残念だなと思いました…。

 

以下は、夫の長文レビューです。

知れば作品理解が深まるかもしれない背景知識などをまとめたそうです!

 

◇「あしながおじさん」を連想

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

イ・ソンギュンとIUが主演したドラマ「나의 아저씨(ナエ アジョッシ)」は、タイトルだけみると「あしながおじさん」のような話なんだろうなと予想してしまう。

「あしながおじさん」の韓国語タイトルは「키다리 아저씨(キダリアジョッシ)」で、「のっぽのおじさん」的な意味だ。あしながおじさんは、孤児院で育ったジュディのために学費や生活費を負担するだけでなく、洋服や家具、タイプライターなどを贈った。ジュディは自分の生活を手紙で一方的に伝える。最終的に二人が結ばれるのは読んでなくてもなんとなく知っていると思う。

だから「私のおじさん」も大企業に勤めるパク・ドンフン(イ・ソンギュン)が貧しいイ・ジアン(IU)を支える話なんだろう、と予想しがちだ。制作側も「あしながおじさん」を多少意識していたという。

 

だが韓国の視聴者は「アジョッシ(おじさん)」と聞いて、「あしながおじさん」のようなハートウォーミングなイメージではなく、「老害」や「くそじじい」のようなものを連想したようだ。

以下は演出を担当したキム・ウォンソクというプロデューサーのインタビュー記事の一部。

김 감독은 “제목에 대한 질문을 받고 ‘누군가의 소중한 존재가 되는 의미‘로 ‘나의‘를 썼다고 했는데 ‘아저씨‘의 의미가 안 좋지 않냐고 하더라, 그때는 그렇게 ‘잠재적 범죄자’나 ‘개저씨’와 같은 의미로 느껴질 수 있다는 걸 몰랐다“라고 말했다.

 

キム監督は「タイトルについて聞かれ『誰かの大切な存在になるという意味』で『私の』を使ったと答えたが、『おじさん』の意味が良くないと指摘された。その時は『潜在的犯罪者』や『犬おじさん』のような意味に取られるとは思わなかった」と語った。

 

(「뉴스1」https://www.news1.kr/entertain/broadcast-tv/5559066)

 

tvNで放送された2018年当時、「アジョッシ」と聞くだけで、「潜在的犯罪者」のようなイメージを持つ人がそれなりにいたということだ。

「개저씨(ケジョッシ・犬おじさん)」は、時代錯誤で問題のある中高年男性を揶揄・批判する造語で2010年代半ばにSNSを中心に広まった。犬を意味する蔑称「개(ケ)」と、おじさんを意味する「아저씨(アジョッシ)」の組み合わせで、家父長的な価値観を周囲に押し付ける時代錯誤的な言動、ハラスメント意識の欠如、年下や部下からの正当な指摘を受け入れず、反省しない傲慢な態度などの特徴を持つ人を言う。

 

韓国の視聴者は、「父娘ほど歳が違う部長(アジョッシ)と派遣社員の恋愛は犯罪のにおいがする」と反射的に思ったようで、ドラマ開始前から4話くらいまでは批判が殺到したという。韓国では2018年からMetoo運動が盛んになり、有力者から性被害を受けたという告発が各分野で相次いだ。放送開始時がこんな雰囲気だったことも重なり、部長と派遣社員のストーリーを素直に受け入れられなかったようだ。

 

◇年齢差と恋愛

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

イ・ソンギュンは1975年生まれ、IUは1993年生まれで18も歳の差があり、ドラマの中の二人はおとなと子どものようで、恋愛物はちょっと厳しいんじゃないかとも感じる。

ドラマ上の設定では、パク・ドンフン(イ・ソンギュン)は1974年生まれの45歳、イ・ジアン(IU)は1998年生まれの21歳で、実際よりも差の大きい24歳差となっている。二人とも寅年で、いわゆる「ふた周り」差だが、役作りがうまいこともあり、ちゃんとそのように見える。

「干支が同じ」というのはドラマの中では触れられていないが、設定が明らかになった当時は、一部ネットで話題になった。

同い年のことを韓国では「동갑(ドンガプ)」と言うが、これは干支が同じであることを意味する。12歳差の「ひと周り」違いも同じ干支になるが、これは「띠동갑(ティドンガプ)」となり、なんとなくお互い親しみを感じるようだ。11歳差や13歳差よりも、12歳差をやや特別視するという意味だ。

韓国は1歳違うだけで、呼び方がオンニ、オッパ、ヌナ、ヒョン(お姉さん、お兄さん)と呼び方が変わり、日本よりも年齢にこだわるが、干支が同じというだけで歳が離れていても同性異性を問わず親しみを感じるのは韓国っぽいかもしれない。

韓国では(日本も同じだが)歳下の女性と結婚すると、「도둑놈(泥棒やろう)」と冗談交じりに罵られる。このひと周り違いの「ティドンガプ」、つまり12歳差が、世間的に結婚が許される限界点(常識の範囲)のような印象も個人的にある。歳の差カップルを見ると、「ティドンガプだって!」とか、「ティドンガプではない」とかいう話をすることが多い。ただ、女性が年上というケースも以前に比べればかなり一般化したが、それでも12歳上の姉さん女房は日本よりもかなり少ないと思われる。

ドラマ制作側が二人を24歳差に設定したのは、恋愛はありえない「ふた周り」を意識したためと思われる。つまり、二人の恋愛ストーリーにするつもりはなかったということだ。ドラマを見れば分かるが、ドンフンはむしろ、「部下と上司の不適切な関係」を最も嫌うような性格で、ジアンと二人で食事することすら避けようとする。

 

だが、タイトルの「アジョッシ」や時代的な背景もあり、視聴者は部長と派遣社員の恋愛を男目線で描いたものと早とちりしたようで、放送初期の評判はかなり悪かった。イ・ソンギュンも周りから「犯罪者扱いされる」と悩んでいた。

우리 드라마가 방송 초반에 일부 사람들에 의해서 욕을 먹은 게 아니라 평이 다 안 좋았다. 모든 기자평, 커뮤니티 평이 다 안 좋았다. 거의 범죄드라마 같았다. 그래서 선균 씨가 ‘감독님, 우리가 범죄자예요‘ 했다. 

 

私たちのドラマは放送初期に一部の人たちだけでなく、すべての評判が悪かった。すべての記者評価やコミュニティ評価がすべて良くなかった。ほとんど犯罪ドラマのようだった。それでソンギュンさんが「監督、私たちは犯罪者です」と言った。

 

(「My Daily」https://www.mydaily.co.kr/page/view/2024100416092672630)

 

ラブストーリーというよりも、人間愛の側面が強いため、ジアンが男性でも成立する可能性も考えた。しかし、娘よりも若い女性をどうにかしようとする「ケジョッシ」は世間にありふれており、ドンフンがそんなケジョッシではないことを示すためにも、ジアンが女性である必要はあったのだと気づいた。実際、ドンフン自身はジアンを異性として扱わないが、対立する側はジアンを異性として利用しようとし、ジアン自身も当初は自分が女であることを利用している。

 

◇ドラマ「ミセン(未生)」との関係

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

「私のおじさん」の演出を担当したキム・ウォンソク監督は「ミセン」の演出も担当していて、イ・ソンギュンは「ミセン」が好きでパク・ドンフン役を引き受けたそうだ。

이선균을 박동훈 역에 캐스팅한 이유도 밝혔다. 김 감독은 “이선균 씨가 그때 마침 ‘악질경찰‘이라는 영화하고 ‘PMC: 더 벙커‘라는 영화를 끝내고 힘들어하는 상태였다. 대본을 소속사 대표님께 주면서 ‘어떠실 것 같냐‘했더니 ‘너무 피곤해서 쉬고 싶다고 하시더라. 대본을 드리긴 할 텐데 어떨지 모르겠다‘ 했다“며 “그런데 드린 그날 저녁에 하겠다는 연락이 왔다. 알고 봤더니 선균 씨가 ‘미생‘을 되게 좋아했다. 대본도 안 보고 어떤 역할인지 모르고 무조건 하겠다고 했다더라“라고 회상했다.

 

イ・ソンギュンをパク・ドンフン役にキャスティングした理由も明らかにした。 キム監督は「イ・ソンギュンさんはその時ちょうど『チョ・ピロ 怒りの逆襲』という映画と『PMC: ザ・バンカー』という映画を終えて、疲労した状態だった。台本を所属事務所の代表に渡しながら『(ソンギュンさんは)どう思うかな?』と尋ねると、『とても疲れているので休みたいと言っていた。台本は渡すが、どうなるか分からない』と言われた」とし、「しかし、渡したその日の夕方にやるという連絡が来た。あとで分かったが、ソンギュンさんは『ミセン』がとても好きだった。台本も見ず、どんな役かも分からないまま、無条件にやると言ったそうだ」と振り返った。

(「My Daily」https://www.mydaily.co.kr/page/view/2024100416092672630)

 

そう言われてみると、「ミセン」との共通点も感じられる。「未生(ミセン)」は、韓国の囲碁用語で「死んでもいないし、生きてもいない石」のことらしい。「ミセン」の主人公のチャン・グレは自身の状態を、「まだ死んでいない」と前向きに捉えて努力する若者だが、「私のおじさん」のドンフンは「死なないことだけ」を目的に、ひたすら耐えているだけのように見える。ジアンもドンフンのことを「真面目な無期懲役囚」のようだと評する。

이지안: 어떻게 월 600을 벌어도 저렇게 지겨워 보일 수가 있을까. 대학 후배 아래서, 그 후배가 자기 자르려고 하는 거 뻔히 알면서 모른 척. 성실한 무기징역수처럼 꾸역꾸역.(4話より)

 

イ・ジアン:月600万ウォン稼いでるのに、どうしてそんなに退屈そうに見えるんだろうって。大学の後輩の下で、その後輩が自分をクビにしようとしてるのが、わかりきっているのに、気づかないフリ。真面目な無期懲役囚みたいにひたすら嫌々無理やりに。

 

実際ドンフンも「人生は耐えること」と考えている。ドンフンは建築士ではなく、建築構造技術者だが、ジアンが「似たようなものじゃないの?」と聞く場面がある。派手な表舞台よりも裏方を好むドンフンの性格の説明にもなっている。

달라. 건축사는 디자인하는 사람이고, 구조기술사는 그 디자인대로 건물이 나오려면 어떤 재료로 어떻게 만들어야 안전한가 계산하고 또 계산하는 사람이고. 말 그대로 구조를 짜는 사람. 모든 건물은 외력과 내력의 싸움이야.인생도 어떻게 보면 외력과 내력의 싸움이야. 무슨 일이 있어도 내력이 세면 버티는거야.”(8話より)

 

違う。建築士はデザインをする人で、構造技術者はそのデザイン通りに建物を作るために、どんな材料でどう作れば安全かを計算し、また計算する人だ。文字通り、構造を組み立てる人。すべての建物は外力と内力の戦いだ。人生もある意味、外力と内力の戦いだ。何があっても、内力が強ければ耐えられるんだ。

 

自分は見た目ではなく、「内力」を作る。ジアンの履歴書には「特技:走ること」とあり、ドンフンは「内力」がありそうだと思って派遣候補の中からジアンを選んだと説明している。

妻の不倫や上司のパワハラ、実家の貧しさという「外力」によって崩壊寸前のドンフンは、「内力」が強そうなジアンに惹かれたのかもしれない。

ジアンが派遣の仕事に加え、アルバイトを掛け持ちしながら聾唖の祖母を支えていることを知り、ドンフンはジアンに同情するが(憐れむことなく)、「착하다(いい子だな)」と褒めるだけで、金銭的な援助はほぼしていない。ただ、会社の飲み会に「一緒に行こう」と誘うなど、これまでより気を配るようになる。

 

◇フゲ洞の人たち

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

 

自分が住んでいる町を韓国語で「동네(ドンネ)」と言い、近所の人を「ドンネの人」、近所の店は「ドンネの店」と言ったりする。「동(ドン)」は洞で、ソウルの人にどこに住んでいるか聞くと、だいたい「XX洞」と答えると思う。ドンフンが育った町は「フゲ洞」という架空の場所で、ソウル市内ではあるものの、再開発が進まない古い町だ。

 

ジアンはこの町のことを「엄청 후진 동네(ものすごく古臭い町)」と評するが、この「劣った」とか「質の悪い」という意味の「フジン」という形容詞が「フゲ」の音と似ているのも制作側が狙ったものだと思われる。

 

ここで暮らすまた別の「おじさん」たちは、もともとは大企業に勤めていたが、いまは自営業をやりながら酒ばかり飲んでいる人たちで、負け組を自称しながらもそれなりに楽しく暮らしている。連帯意識が強く、地元を愛し、乾杯の音頭は「후계, 후계, 잔을 비우게」(フゲ、フゲ、チャヌルピウゲ)だ。「フゲ、フゲ、杯を空にしろ」という意味だが、「フゲ」と「ピウゲ」の韻を踏んでいる。

 

「ソウルの家から大企業に通うキム部長の物語」のこちらの投稿でも触れたが、韓国の大企業で50代になっても残っていられる人はかなり少数で、町の人たちはドンフンが40代半ばで大企業の部長を務めていることを誇りに思い、「会社にしがみつけ」と助言する。

 

ドンフンの部下のジアンがこの町に住んでいることを知り、町をあげてジアンを気にかけるようになる。「自分たちにも若い頃があった、こんな風に歳を取ると思うと、恐ろしいでしょ」と話す町の人に対しジアンは「早くその歳になりたいです。生きるつらさが少しは減るだろうから」と答える。「今を生きるのがつらい」という告白を聞いて、町の人たちは何も言わずにジアンを見つめる。

なにをしてもらうわけでもなく、「気にかけてもらう」ことが、ジアンにとって初めての経験で、人の優しさだった。

 

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

 

ジアンはドンフンが常務に昇進するための聴聞会に、証人として呼ばれ、ドンフンについて語る。ここでもジアンは、自分を人間として扱い、「飲み会に行こう」と声をかけてくれたのはドンフンが初めてだったと語る。

 

배경으로 사람 파악하고 별 볼 일 없다 싶으면 빠르게 왕따시키는 직장문화에서 스스로 알아서 투명인간으로 살았습니다. 회식 자리에 같이 가자는, 그 단순한 호의의 말을 박동훈 부장님한테 처음 들었습니다. 박동훈 부장님은 파견직이라고, 부하직원이라고 저한테 함부로 하지 않았습니다.

 

背景(生い立ちや学歴など)で人を判断し、大したことないと分かればすぐにのけ者にするような職場文化の中で、私は進んで透明人間として生きてきました。「飲み会に一緒に行こう」という、そんな単純な好意の言葉を、パク・ドンフン部長から初めてかけられました。パク部長は派遣社員だからと、部下だからと、私を雑に扱うようなことはしませんでした。

 

(개저씨 상무:그래서 좋아했나? ) 

 

クソみたいな常務:それで好きになったのか?

 

네 좋아합니다. 존경하구요. 무시와 천대에 익숙해져서 사람들한테 별 기대도 하지 않았고 인정 받으려고 좋은 소리 들으려고 애쓰지도 않았습니다. 그런데 이제 잘 하고 싶어졌습니다.제가 누군가를 좋아하는 게 어쩌면 지탄의 대상이 될 수 있는지 모르겠지만,제가 오늘 잘린다해도 처음으로 사람대접 받아봤고 어쩌면 내가 괜찮은 사람일 수도 있겠다는 생각을 들게 해 준 이 회사에게, 박동훈 부장님께 감사할 겁니다.

(共に12話より)

 

はい、好きです。尊敬もしています。無視や冷遇に慣れ、人に何も期待せず、認められよう、褒められようと努力することもありませんでした。でも、今はちゃんとやってみたくなりました。私が誰かを好きになることが、もしかしたら非難の対象になるのかもしれませんが、今日クビになったとしても、初めて人間として扱ってもらえて、もしかしたら自分は悪くない人間なのかもしれないと思わせてくれたこの会社に、パク・ドンフン部長に感謝します。

 

ドンフンやフゲ洞の人がジアンに与えたものは、物質的なものではなく、隣人としての関心だった。

 

◇イ・ソンギュンの死と至安(ジアン)

『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

 

ドンフンを演じたイ・ソンギュンは薬物使用の容疑で取り調べを受け、結局、自死を選んでしまった。容疑者の段階で犯罪者のように報道されるという「外力」に耐えられなかった。検査を何度も受け、薬物反応はでなかったが、いかがわしい店の関係者から脅迫されて約3500万円を渡してしまっており、「やっていたから金を払った」と思われてしまった。

 

薬物使用で捕まってもまた復活する日本の芸能人のことを知っているわれわれからすれば、そんなの「아무것도 아니야(なんてことない)」のに、イ・ソンギュンは「深刻に」受け止めてしまった。

네가 대수롭지 않게 받아들이면, 남들도 대수롭지 않게 생각해. 네가 심각하게 받아들이면 남들도 심각하게 생각하고. 모든 일이 그래. 항상 네가 먼저야. 옛날 일, 아무것도 아니야. 네가 아무것도 아니라고 생각하면 아무것도 아니야. 이름대로 살아. 좋은 이름 두고 왜.(10話より)

 

お前が大したことじゃないと受け止めれば、周りも大したことじゃないと思う。お前が深刻に受け止めれば、周りも深刻に考える。すべてのことがそうなんだ。いつでもお前が先なんだよ。昔のこと? そんなのなんてことない。お前がなんてことないと思えば、なんてことないんだ。名前通りに(心穏やかに)生きろ。いい名前があるのに、どうしてそうしないんだ。

 

ドンフンは「なんてことない」とメッセージを送ってくれたジアンに聞かせるようにつぶやく。

죽고 싶은 와중에 죽지 마라. 당신은 괜찮은 사람이다. 파이팅해라. 그렇게 응원해주는 사람이 있다는 것만으로 숨이 쉬어져. 고맙다. 옆에 있어줘서

(13話より)

 

死にたいと思っているときに、「死ぬな」「あなたはいい人だ」「頑張れ」って、そうやって応援してくれる人がいる、それだけで息ができるんだ。ありがとう。そばにいてくれて。

 

イ・ソンギュンに「あなたはいい人だ」「死ぬな」と言いたい人は世界中にあふれているのに、その言葉は届かなかった。

 다 아무것도 아니야. 쪽팔린 거? 인생 망가졌다고 사람들이 수군거리는 거? 다 아무것도 아니야. 행복하게 살 수 있어. 나 안 망가져. 행복할거야. 행복할게.

(15話)

 

全部なんてことない。恥ずかしいこと? 人生が終わったって周りが噂すること? 全部なんてことない。幸せに生きられる。俺は壊れたりしない、幸せになれる、幸せになるよ。

 

ジアンの名前は漢字で「至安」。最終回でドンフンはジアンに再会し、こう尋ねる。

지안, 편안함에 이르렀나?

 

ジアン、便安(平穏)に至ったか?

 

「心穏やかに生きる」というのはとても難しい。ドラマの中でそれが実現できているのは、「負け組」を受け入れているフゲ洞のおじさんたちと、すべてを捨てて出家したドンフンの親友のキョンドクだけのように見える。そのキョンドクですら、昔の恋人ジョンヒと会ったことで心を乱し、修行を行っている。では、「平穏」を得るとは、すべてを受け入れ「何も望まない」ことなのだろうか。そうではないだろう。

 

ドンフンがジアンに語ったように、「自分が大したことじゃないと思えば周りも大したことじゃないと思い、自分が深刻に受け止めれば、周りも深刻に考える。すべて同じで、いつでも自分が先」なのだ。評価を人に委ねている限り、平穏は決して得られない。自分がどう受け止めるか、自分次第で平穏にも不安にもなる。

 

◇まとめに代えて

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

自分が置かれている環境でひたすら耐えている中年男性が、同じようにひたすら耐えている少女に向け、「そんな風に生きるな、幸せになれ」と語りかけることで、自分自身ももう一度、立ち上がろうとする話。社会的な成功だけをひたすら求める韓国社会に対する一つの反論。私が感じた「私のおじさん」はこういう話だった。

 

クォン・ナラが演じる女優のユラはフゲ洞についてこのように語る。

인간은요, 평생을 망가질까 봐 두려워하면서 살아요. 저는 그랬던 것 같아요. 처음엔 감독님(기훈)이 망해서 정말 좋았는데, 망한 감독님이 아무렇지 않아 보여서 … 더 좋았어요. 망해도 괜찮은 거구나. 아무것도 아니었구나. 망가져도 행복할 수 있구나. 안심이 됐어요. 이 동네도 망가진 것 같고 … 사람들도 다 망가진 것 같은데 … 전혀 불행해 보이지 않아요. 절대로. 그래서 좋아요. 날 안심시켜줘서…

(7話より)

 

人間って、いつか失敗するんじゃないかって一生怖がりながら生きるんです。私はそうだった気がします。最初は監督(ギフン)が落ちぶれて本当に嬉しかったんですけど、落ちぶれた監督が平気そうに見えて……もっと嬉しくなりました。落ちぶれても大丈夫なんだ、なんてことなかったんだ、失敗しても幸せになれるんだって、安心したんです。この町も落ちぶれているみたいだし……住んでいる人たちもみんな落ちぶれているみたいだけど……ちっとも不幸せそうに見えません。絶対に。だから好きなんです。私を安心させてくれるから。

 

名セリフの多いこのドラマで、イ・ソンギュンは「아무것도 아니야(なんてことない)」が一番、印象的なセリフだったと言っている。「諦め」のことばのように感じるがそうではない。フゲ洞の人たちは、落ちぶれ、人生を諦めたから幸せなのではない。他人からの評価や社会的な地位は「なんてことない」もので、自分の「私の」気持ちが大切だと知っているからだ。だから「おじさん」じゃなくて、「私のおじさん」なのだ。

 

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』レビュー
tvN『나의 아저씨』公式サイトより

 

イ・ソンギュンさんが内力も外力もないところで平穏でいらっしゃることをお祈りします。

 

 

 

こちらのOST、アイユー(IU)本人が歌った動画は下記の記事にあります。

『私のおじさん』がおごってくれたスユク。感想+OST♪ドラマ韓国語

 

韓国ドラマ カライチTOP IU

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3 コメント

  1. なぱさん
    コメントありがとうございます。運営者の夫です( ‘ヮ’ )
    過度なネタバレにならず、ただの感想にならないように気をつけたつもりですが、お褒めいただき嬉しいです。とても励みになります。

  2. このレビューは、名文です。このような素晴らしい考察には出会ったことがありません。どうしても一言お礼が言いたくてコメントします。ありがとうございます。素敵なお二人のブログ、これからも楽しませてください。

    • >なぱさん
      コメントを拝見してすごく嬉しかったです。私が書いたのは冒頭のみで、写真などの編集だけでしたが。笑
      すぐ夫に知らせました。ありがとうございます!!

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